ネコ十ヶ条

 おれさまは猫ニャー。ご主人様の家で飼われてもう十年以上になる。

「こんちはー。お届けものです」

 そう言って、届けてられたのは、全猫世界協会(略して全世会)から送られてくる猫世界新聞(略して猫新聞)ニャー。

ふむふむ。さっそく届いたばかりの猫新聞に目を通してみる。イタリアでは飼い猫の間ではくつしたが大ブーム。アメリカでは世界一周最年長猫記録を更新。中国ではカゼが大流行。東京では子猫の数が十年連続で少なくなっている。こんな風に世界中の猫に関する情報が書かれてあるニャー。

おれさまは猫新聞が毎月届くのを楽しみにしているニャー。でも最近の若い猫ときたら猫新聞を読まないと聞く。最近の若いやつはだめだニャー。世の中のことも知らニャイで、立派な猫になれるわけニャイ。

猫新聞の最後のページには「ネコ十か条」が毎回載っている。それは猫の、猫による、猫のための決まりごと。おれさまもこれを見て育ったものニャー。

その十か条の最初にはこうあるニャー。

『一.猫たるもの、身だしなみには気を使うべし』

顔を洗うこと。毛づくろいすること。爪をとぐこと。これは猫の三大エチケットといわれているニャー。病気にもなり易くなる。町で守っていない猫を見かけたら注意してやる。それが年寄りの猫たる務めでもあるニャー。

 二つ目にはこうニャー。

『二.猫たるもの、首の後ろをつかまれたら大人しくすべし』

 ここをつかまれると力が抜けてしまう。母猫が子猫を運ぶためによく使うニャー。今では大人になってケンカしてもここをつかまれたらもうやめろっていう合図にもなっている。人間も時々これを使っているのを見かけるニャー。

 次、三つ目いくニャー。

『三.猫たるもの、身体を丸く小さくしてどこでも眠るべし』

 猫は頭さえ通ればどんな狭いところにも入れるほど体が柔らかいニャー。屋根の上でも階段の隅っこでもほんの少しのスペースがあればいつでもどこでも眠れる。それに丸くなればあったかい。

『四.猫たるもの、常にハンターたれ』

 野生の本能を忘れてはだめニャー。おれさまもそれを忘れないために、時々はねずみや鳥を追いかけることにしてる。たとえ飼い猫であっても、いつ敵に襲われるかもしれニャイ。明日のご飯にありつけないかもしれニャイ。生きていくためには、これが一番大事なことなのかもしれニャイ。

『五.猫たるもの、恋をしろ』

 最近は恋愛に興味のない草食系猫なんてのも増えているらしい。時代は変わったニャー。それでも子孫を残すために恋は欠かせニャイ。おれさまも若いころには何匹ものメス猫たちと恋したものニャー。

 次のやつはおれさまもよくわからニャイ。

『六.猫に小判』

 そもそも小判なんてものが何ニャのか、おれさまは見たことがニャイ。人間たちが大事にしているものの一つらしいけど。それよりおれさまは魚をくれる方がよっぽどいいのニャー。

『七.猫たるもの、車に気をつけるべし』

 人間たちの乗りもので非常に危ニャイやつニャー。体が大きくてとても硬い。それにものすごく臭い息を吐く。普段はちっとも動かないくせに、いざ動き出すと素早い。こいつに襲われたらひとたまりもニャイ。ちなみにこの一文は昔は、「車」ではなく「馬」だったらしいニャー。

『八.猫たるもの、熱いものには気をつけるべし』

 猫は本来、陽だまり、コタツ、暖かいものが好きニャー。でも、熱いものは苦手ニャー。ご主人様が時々出してくれるスープって熱い飲み物も冷まさないと飲めニャイ。特に火ってやつは曲者ニャー。やつらは形がなくて、どこから現れるかわからニャイ。全てを灰にしてしまうニャー。

 ご主人様がおれさまを呼んでる。ちょっと行くニャー。

『九.猫たるもの、人間にコビるべからず』

当たり前のことだが、人間と猫は違う生き物ニャー。残念ながら言葉も通じニャイ。人間に忠実な犬のようになってしまったら、猫である意味がなくなる。こんな風に見えてプライドが高い。どんなにご主人様がおれさまのことが好きでもニャー。

 いよいよ、最後ニャー。

『十.猫たるもの、飼い主に死に様を見せるべからず』

 猫が死ぬときはひとり。病気で動けなくならない限りは、猫が死ぬときには人間の前から姿を消す。人間に死を悟られてはいけない。人間は目ざとい生き物だから大抵は見つかってしまうのだけど、おれさまはそんなヘマはしニャイ。

実は、おれさまたち猫は生まれたときからいつまで生きられるか決まっていて、それを知っているニャー。もちろんおれさまも自分がいつ死ぬのかを知っている。だから、車や熱いものにやられない限りは、その寿命を生きることができるニャー。おれさまに残された時間はもう余りニャイ。

おれさまが死ぬときには、ご主人様にふらっと行っただけで、またふらっと戻ってくると思わせる。時々、意味もなく外に泊まりにに出掛けるのもそのためニャー。最初は心配もするだろうけど、そのうち、ご主人様がおれさまのいニャイ生活に慣れて、おれさまのことを忘れてしまうだろう。時間だけが過ぎていって、おれさまのことをゆっくり忘れていくニャー。

それでいいニャー。それがいいニャー。おれさまの頭を撫でてくれるご主人様を悲しませたくニャイ。

それにおれさまが死んだ途端、すぐに代わりの猫をもらってくるなんてことがあったらおれさまはショックで、きっともう一回死んでしまうニャー。だから、絶対にご主人様には死を悟られてはいけニャイ。

 ご主人様がおれさまのあごの下をかいてくれる。ああ、そこそこ。ご主人様はおれさまのことをよくわかってくれている。せめて今日一日だけでもこうしていられたら。おれさまはもう思い残すことはニャにもないニャー。もう覚悟は出来ている。ほんと幸せな猫人生だったニャー。

             

 

    (完)