
キツネのジャックは、今日も夜空を見上げていました。 その見つめる先には、白い大きな真ん丸がぽっかり浮かんでいます。そう、ジャックは、お月さまに恋をしていたのです。 毎晩、近所の山のてっぺんに出かけては空を見上げているのです。時には、まるでオオカミのように吠えたりもします。 ジャックは、初々しく咲く赤や黄色の花よりも、豪快な滝に自然の力強さを感じる景色よりも、雨上がりにできる摩訶不思議な七色の虹よりも、はてまた、仲間のどんなキツネよりも森の動物よりも、ずっとお月さまの方が素敵だと思っていました。 ある日、友達のキツネが言いました。 「ばかだな。おまえ。お月さまなんてあんなに遠い空に高くにいるのに、俺たちがいくらがんばったって…。おーい。お月さま。」 突然、友達のキツネは、空に向かって耳が痛くなるような大きな声を出しました。 「ほらな。聞こえているかどうか知らないけど、声かけたって、全然相手にしてもらえないだろ。」 「それでもいいんだ。」 友達のキツネは、その後も何度もジャックにやめるように言いましたが、ジャックは全くその気はありませんでした。それどころか毎日見上げるたびに、その光に心が吸い込まれるような気がしてどんどん好きになっていました。 トリたちのうわさでは、お月さまはどうやらおてんとさまのことが好きらしいということでした。どうも会うのも恥ずかしいらしくて、いつも後ろから見つからないようにこっそり追いかけているだけらしいのです。 それを聞いたジャックは、自分だったら好きであれば、少しでもそばにいたいのにと思いました。それから、トリたちに自分のことをお月さまに伝えてほしいと頼みました。トリたちは快くそれを引き受けたのでした。 それから何日もジャックはトリたちの帰るのを、まだかまだかと待っていた時でした。遠くの空を見上げていた鼻にぽつんと何かが当たりました。 「雨…。」 その日を境にお月さまもおてんとさまも顔を見せない雨の日がずっと続きました。 ジャックは、寝床のほら穴から空を見上げては早く止まないかなと思っていました。 その時です。一羽のトリが洞穴に飛び込んできました。 「大変だ。どうやらお月さまはおてんとさまに振られてしまったらしい。この雨もお月さまが流してる涙だってうわさだよ。」 それを聞いたジャックは矢のように駆け出しました。 体がずぶぬれになりながらもいくつも山を越えました。走りすぎて足の皮が破れて血がにじんでも何度も激しい川を渡りました。途中で人間の漁師に撃たれそうになったときも必至で走り続けました。 三日間走り続けた休まずジャックはついに目的の地にたどり着きました。 ここは雲の上の世界。トリたちから聞いた一番空に近いという山のてっぺんでした。 ジャックが空を見上げると、お月さまが浮かんでいました。その姿は細長くずいぶんとやせてしまっているようでした。 「そんなに悲しまないで。お月さま。つらい気持ちは私にもよく分かります。でも、この地上にはあなたの姿を見るのを毎日楽しみに暮らしているものもいるのです。どうか。泣くのは止めて下さい。」 ジャックは力いっぱい大きな声でさけびましたが、お月さまは黙ったままです。 「この声がまだ届かないのですね。だったら、もっと近くに参ります。」 ジャックは助走をするとやまのてっぺんから大地を蹴って、ジャンプしました。 その目一杯伸ばしたその手の先にも残念ながらお月さままでは届かず、その体は弧を描いて雲の中に消えていきました。 何日かして雨は止みました。 ジャックは足の骨を折って、全治三ヶ月の重傷でした。幸いにもそれを追いかけていたトリたちが見つけるのが早くて命を取り留めました。今は森の病院に入院中です。 それでも、ジャックは今日もベランダへ出てお月さまを眺めているのでした。 (おしまい)
|