
それは、ある日のことでした。 「今日は、みんなに新しいクラスメイトを紹介します」 どうやらこの4年1組に転校生がやって来るようでした。リサコはかっこいい男の子だといいなと思いました。 「どうぞ、タケシ君入って」 先生の合図でタケシ君が入ってきました。それを見てリサコはびっくり。たけし君の頭にはぴんと伸びた耳が。それに全身真っ白い毛におおわれています。服もくつもはいていますが、どこからどう見ても人間の格好をしたウサギなのです。 「ぼくは転校生のタケシです。まだ来たばかりなので、みなさんにご迷惑をかけることもあると思いますが、よろしくお願いします」 タケシの鼻がひくひく動いても、リサコはまだ何が何だかわかりません。となりの席のアキに小声でたずねてみました。 「ねぇ、あれってウサギ?だよね」 「そうだね。ウサギだよね…」 アキもとまどっていました。 他にもゾウが入ったクラスもあるし、クマとかヒツジもいるらしいのです。となりの2組にはライオンが転校してきたって聞ききました。でもまぁ、ライオンよりはウサギの方がましかなとそのときは思いました。 その日は学校中が大騒ぎでした。ゾウの入った教室は床が抜けるし、キリンは首が長くて教室からはみ出るし、サルは蛍光灯にぶら下がるし、ライオンはいじっめ子をやっつけてクラスの人気者になったとか。 次の日もまた転校生がやってきました。 「おれの名前はケンジ。みんな、よ・ろ・し・く。ケンって呼んでくれ」 今度の転校生はお調子者っぽい感じがします。ところどころに茶色と黒のぶちのあるウサギ…。 「作り物じゃないよね?」 「昨日、タケシ君にさわらせてもらったら、ふわふわしてて温かかったよ。耳はさわったら、くすぐったいから止めてってさ」 なんとそれからほとんど毎日、ウサギが転校して来ました。 「ミキです。みなさん仲良くしてください」とミキは全体的に茶色がかったウサギでした。 「ぼくの名前はヒロシです。まわりから変わり者だとよく言われます」とまた白色。 「イズミだよ。ママが清く澄んだ水がいつも涌き出る泉のようになりなさいとつけてくれました」とまたまた白色。 他の教室でもそんな転校生が増えていました。全学年でゾウとキリンは一匹ずつでしたが、ライオンとペンギンが2匹ずつ、ゴリラとシマウマとニシキヘビとアザラシが3匹ずつ、他にもまだまだたくさんいます。 そしてついに4年1組の教室では、人間の数よりウサギの数が多くなってしまいました。運動会のクラスリレーでは、ウサギたちはすばっしこいのでぶっちぎりの一位。玉入れでもそのジャンプを活かして大勝しました。 しかし困ったことも出てきます。クラスの花壇に何を植えるかという学級会では多数決でにんじんが決まり、遠足の行き先では、遠くの山の中に決まったりしました。ケンジは先生に質問しました。 「先生。にんじんはおやつに入るんですか?」 ガラや色のあるものはまだいいのですが、同じ白色のウサギが十二匹もいるとどう見ても同じ顔に見えます。 「すまんが、これをカナちゃんに渡しておいてくれるか」 先生から言われてもどれが誰だかさっぱりわからないのでした。こうなると動きで見分けるしかありません。リサコがこれかなと大人しそうなウサギを見つけて渡しても、 「ぼくはジロウだよ。女の子と間違えるなんて失礼だな」 と言われてしまいます。このままでは頭がおかしくなりそうです。 タケシが転校してきてから2ヵ月が過ぎました。もう転校してくるウサギはいなくなりましたが、教室はウサギでいっぱいです。 「ウサギたちのあとつけてみない?」 言い出したのはアキでした。前からどこに住んでいるのだろうとリサコも不思議に思っていました。他のクラスメイトにも声をかけたら、すぐに何人かが集まりました。 リサコたちは見つからないように校舎のかげに隠れていました。校舎から一匹のウサギが出てきました。どうやらあのガラと色はミキのようです。ミキは正門の方へは行かずに裏口の方から出るようでした。体育館の脇を抜け、プールの脇も抜けるとそこが裏口です。 後ろをこっそりとつけていたミキが角を曲がったところで突然消えてしまいました。この先はまっすぐな道で他に曲がるところも隠れるところもありません。 「あれ、おかしい。変だな」 ちょうどそのときでした。どこかで「だれか助けて」とさけぶ声がしました。 リサコたちは声のする方へと行きました。どうやらウサギ小屋の方から聞こえてきます。ウサギ小屋はずいぶん前から空っぽのはずでした。リサコたちがウサギ小屋に来ると、なんと中にはクラスメイトのナギサが閉じ込められているではありませんか。 「ウサギたちに閉じ込められたよ。人間はぼくたちをオリの中に閉じ込めるだろって」 ナギサはオリの外に出るとリサコにそう言って泣きつきました。こんなひどいことをするなんて。リサコはだんだんと腹が立ってきました。 「校長先生に文句を言いに行ってやる」 リサコは全力で走って、校長室の戸を思いきり開けました。すると、そこにはヤギがいて紙をむしゃむしゃ食べているところでした。ヤギは、突然のことにびっくりした様子でした。 「きみたち。入るときはノックくらいしなさい。それとこの紙のことは誰にも言わないように」 リサコはあ然としてしまいました。まさか校長先生まで動物になっているなんて…。 リサコは校長室を出ると、急いで家に帰り、ケンタを連れ出しました。ケンタはリサコの家で飼われているオスの白い犬で、リサコよりも体は大きいのです。前にウサギは犬が苦手だというのを聞いたことがあります。 リサコが教室に連れて行くと、ケンタが激しく吠え出しました。まだ残っていた何匹かのウサギたちは突然現れたケンタにおどろきました。 「コラ、ケンタ。やめなさい」 少しこらしめてやろうというくらいの気持ちだったのにケガでもさせてしまったら大変です。リサコは必死にケンタを止めようとしましたが、ケンタはリサコの手を振り切って、一匹のウサギの足にかみつきました。リサコは泣きたくなりました。 そのとき、ぽろりと足が落ちました。誰もが目を丸くしました。ケンタのかみついた足は作り物の足だったのです。ウサギには足がないではありませんか。 「一体どういうこと?足がないなんて…」 「ばれちゃったみたいだね。そう、ぼくたちはみんなユーレイなのさ」 そういうと他のウサギたちもいっせいに作り物の足を取りました。 「みんな、この学校のウサギ小屋で死んじゃっちゃたウサギばかりでね。生きている時はいつもオリの中から人間を見ていたのさ。ぼくらをかわいがる人間もいれば、そうでない人間もいる。いったい人間たちは何をやっているんだろうって化けて出てきたのさ」 そう言った白いウサギはタケシでした。 「もうばれちゃったからおとなしく帰るけど、ちゃんと世話してなかったらまた化けて出てやるから」 そう言うと、タケシも他のウサギたちも一斉に消えてしまいました。教室には発泡スチロールでできた足だけがいくつも残っていました。 リサコの学校では今年の春にウサギが死にました。そのことをみんな忘れていました。そのウサギの名前は…。
そして次の日。お昼休みの時間にクラスのみんなでウサギ小屋の近くにお墓を作りました。そして花を飾って、最後にみんなでお墓に手を合わせました。 「いつでも化けて出ておいで。あんたたちだって4年1組のクラスメイトなんだから」 リサコはお墓の前であくしゅするように手を出しました。何かが手にふれたような気がしました。 ちょうどそのとき、鳴き声が聞こえて振り返ると、運動場では体育の授業でゾウとキリンが混じって玉入れをしているクラスがありました。 「ウサギはわかったけど、じゃあ、あれはいったい何?」
(完)
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